ひと晩、消えるか消えないかの弱火で眠らせた、澄んだ一杯のだし——。宮廷の厨房で華やかな出世の口を辞退し、誰にも見られぬ片隅でだしを取り続けてきた賄い方の娘。彼女が選んだのは、国境の寂れた関所町テルゼの、貯えにかびを生やしたちいさな食堂だった。骨と根菜、ほんのひとつまみの干し茸。それだけの鍋を急がず炊いた滋養スープが、冷えた体を芯から温めると評判になり、見回りの騎士フィンが日に三度も通ってくるように。やがて隊商も巡礼も行商人も、彼女の湯気を求めて集い、寂れた町に再び人の声が戻っていく。火を急がせず、灰汁をていねいにすくう——その丁寧な手仕事が、人の心と町をほどいていく。雪が溶け、春の炉に新しい湯気が立つ、心あたたまるスローライフ・グルメ譚。#異世界スローライフ #料理 #グルメ #ハッピーエンド #全年齢

