抜刀術というのは、地味な剣だ。鞘の内で間合いを計り、たった一拍の抜きつけに全てを込める――祖父の遺した道場を一人で守り、来なくなった門弟の名を出席簿から消し続けてきた久遠透真は、誰にも特別だと思われない、平凡な剣士だった。その剣すら、誰の心も動かさない。看板を下ろそうとした雨の夜、祭壇の暴発に巻き込まれ、彼は香炉の煙立ちのぼる剣の王国アルディオンへ偶然召喚される。迎えたのは、氷の聖騎士団長セレン。十年、誰にも応えられず凍りついた孤独な剣を背負う男だった。言葉ではなく剣で語り合ううち、透真の正しいだけの抜刀が、初めて誰かの心に届く。典礼長派の専横に抗いながら、剣を交わすことが祈りになる。誰にも譲らない――その笑みを、彼は透真にだけ見せた。BL異世界召喚剣士ファンタジー長編、全10章完結。

