舞踏会の夜、「役立たず」と侯爵令息に婚約を解消されたアセラリーネ。けれど取り乱しはしない――社交界に居場所を失った彼女には、海事学院で磨いた確かな手仕事と、向かうべき隣国の港があった。潮の香る海運街エルメリア港で、先代が遺した旧造船所を任された彼女は、竜骨を起こし、図面を引き、灯台の灯を頼りに荒れた船渠を一つずつ立て直していく。やがて彼女の造船設計は王国海軍をも動かし、かつて「地味な令嬢」と侮った者たちは静かに評価を見直すことになる。そして、彼女の手仕事を誰より近くで見守ってきた若き提督キリアンが、東岬の灯台が照らす桟橋の上で差し出したのは、海図に添えた静かな求婚の言葉だった――この人を、この港に留めたい、と。婚約破棄から始まる、海辺の街の港湾スローライフ・ロマンス。
