地方の音楽教室で講師をしていた無名のソプラノ・紗良は、引退した天才指揮者・永代律生に「個人レッスン/音楽療養」の名目で、海沿いの岬に建つ廃オペラハウス・響泉館へ連れてこられる。あるのは外界との接触遮断、録音と楽譜の独占管理、お前の声は世に出せば必ず消費されるという芸術論の説得。独占される歌そのものが檻となり、紗良は岬を出られなくなる。「壊れている」と評される彼は、彼女の前でだけ別人のように甘く、絶対に手放さない。お前の本当の聴き手は俺だけだ——その独白が、恐怖を安堵へと反転させていく。芸術ゴシック・救いある執着溺愛。
