京都老舗和菓子司「夕雲堂」の創業百八十周年特集の取材担当として八年ぶりに京都を訪れた私を待っていたのは、「氷の若旦那」と呼ばれる五代目候補・柚瀬暁・専務。八年前、母の通夜の帰り道に立ち尽くす私を奥座敷へ招き入れ、賄いの『冬至雪まる』を一つだけ手渡した、あの青年だった。「八年、待っていた」──冷徹な双眸の奥で八年分の執着が灯る。私は彼を覚えていないのに、彼は涙を堪えて口にしたあの口溶けまで覚えていた。組合縁談の影、毎年冬至に書き残された八年分の処方箋。誰の記憶にも残らないと諦めた私は、八年間ずっと探されていた。記憶執着の格差溺愛・現代TL長編、全10章完結。

