大陸の縁、海鳴りの谷に棲む狼の獣人の群れ。その境界の祭に流れ着いた人間の旅楽人イーリャが、手すさびに奏でた古い潮歌は、群れを統べる若き狼王の本能を底から揺さぶった。その夜、俺は生まれて初めての発情期を迎える。母が遺した護りの貝環が、潮の満ちる刻に砕けたのだ。谷に満ちた発情フェロモンの中、俺を組み伏せたのは、銀牙の狼王ヴェルナだった。「お前の音が、お前の匂いが──お前が、俺の運命の対か」。百の冬を越えてなお対を得なかった人外の王が、人間の奏士を「番」と認識する。岩窟宮に留め置かれた俺は、人外の独占愛と群れ内の対立に晒されながら、自らの音を世界に遺すために選び取る。BL異世界獣人オメガバース長編、シリーズ第3巻・全10章完結。
