柳村啓治は半年前に長年連れ添った妻と別れたばかり。2人の子供が独立した直後に妻から離婚を切り出されて判を押した。家に帰っても誰かが待っているわけではない。仕事帰りに馴染みになったおでん屋の屋台にやってきた。今夜は珍しく先客がいた。濃紺のダウンコートに身を包んでおり、色白で整った顔立ちをしていて、栗色のふんわりした髪を後ろで緩く束ねていた。彼女は近所の病院で働く38歳の看護師・永内秋絵。前に会ったことがあるような感覚になったが、啓治が離婚後にストレスから胃腸の調子が悪くなった際に秋絵の働く病院で診てもらい、お世話になっていた。お酒が進んで話が盛り上がり、啓治の誘いに乗って、家までついてきた。「柳村さんもすごいですよ。誰かの人生を変えてしまうんですから」と意味深に語る秋絵だったが、2人には共通の思い出があって……。
