ーこの恋は罪か。それとも祟りかー――もしも死んだら、涙の一つくらいは浮かべてくれるだろうか?奉公人の伊助は店の若旦那・雪隆への届かぬ恋にやつれ、病床に伏し死を待っていた。寒々しい冬、泣き濡れて目を閉じた伊助の耳に懐かしくも愛おしい人の声が届く。だがそれは幻ではなかった。「すべてを捨ててきた。共に生きよう」それは、あってはならない罪の始まりだった。安住の地を求めるも、受け入れてくれる場所はなく彷徨う二人。心身共にすり減らした二人が辿り着いた隠れ里で歓待を受けた翌日――雪隆は倒れた。熱があるのに震え痺れ、腹痛と嘔吐を繰り返す人を支えた伊助は「この方を守れるのは僕だけだ」と奮い立つ。雪隆の知恵もあり村人を欺きながら逃げる手段を探す二人は、因習村の闇を知る。河原の祠――『トガミサマ』を奉るそこは季節外れの彼岸花が揺れ、青白い蛍が舞う。そして、秘密を探る伊助にだけ聞こえる『――逃ゲロ』という声と、首切りの夢。「六部殺しの村がある」雪隆がかつて商人から聞いた噂は本当なのか。――彼岸より呻くのは誰?
