花もいけられていない母の部屋からは、どういうわけか気怠く甘い花の匂いがした。
――ミュンデロット公爵家の娘、マリスフルーレの母が死んだ。
その日からマリスフルーレの生活は一変してしまった。父が愛人とその娘を連れて帰ってきたのだ。優しい使用人たちは追い出され、マリスフルーレも屋根裏部屋に追いやられた。
母の残した公爵家を守らなくてはいけないという思いもむなしく、マリスフルーレは虐げられる日々を送ることになる。
母と仲が良かった王妃の計らいで第二王子メルヴィルとの縁談が決まるものの、悪辣な腹違いの妹クラーラの策略によりマリスフルーレは窮地に立たされてしまう。
そこに救いの手を差し伸べたのは、敵兵の首をはねてその血を飲んでいる吸血伯と噂されている、辺境伯ルカ・ゼスティアだった。
ルカは噂とは違いほがらかで優しい人で、マリスフルーレをとても大切にしてくれた。
彼のおかげでマリスフルーレは失っていた強さをとりもどしていくが、ルカには何か秘密があるようで──。

