この女が俺のため女のであるのと同時に、俺もこの女のための男だ。塾講師兼詩人の黒澤志信には、ひとりの女がいた。かつての教え子で、黒澤の詩に惚れてしまった哀れな女、藤原叶恵。二人は週末に逢瀬し身体を重ね、人生の甘さや苦さに耽っていた。二人は交際も結婚もしない。それはなぜか?しかし二人は離れ離れになることもない。それはなぜか?二人が選択した関係性は、歪なのか?依存なのか?はたまた、純潔な愛そのものなのか?従来の型に捉われない美しい関係性がここにある。2022年から執筆開始した『私のためのひと』シリーズ 、総集編。36ページ
