目が覚めた私は、自分が誰なのか周りの人が誰なのか、何も覚えていなかった……。
私はアリーチェという公爵令嬢であるらしい。
そして、父と兄を名乗る二人は泣きながら私に謝る。
痩せほそった体、痣が残る肌、皆が過保護に私を気遣った。
けれど、何が起きたのかを誰も語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。
私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけ――。
やがて、すべてを知った私はひとつの決断をする。
――失った記憶を巡る優しい嘘からはじまるミステリー!