本書は、紀元1世紀、帝政を迎えた古代ローマに生きた詩人マルクス・マーニーリウスによる、天文学・占星術について記された最古の文献の一つです。作者マーニーリウスについては『アストロノミカ』の著者であること以外、確かなことは知られておらず、本作に見られる記述から初代皇帝アウグストゥスから第二代皇帝ティベリウスの時代に書かれたことを推測できるにすぎません。
古代において、天文学と占星術のあいだの区別は存在しませんでした。執筆当時のローマを見れば、アウグストゥスが生まれた日に占星術師プブリウス・ニギディウスが「地上世界の主が生まれた」と断言したと伝えられ、アウグストゥス自身も天文学や占星術を利用していたことが知られています。未来を知ることができる技術がとりわけ政治家にとって重要な意味をもつことは想像に難くないでしょう。だからこそ、マーニーリウスは本作の第一巻の序歌にこう記しました。
「生きた身ながら果てしない大空を巡ること、そして星座や
逆行する惑星の動きを知ることは喜ばしい。
だがこれらの知識だけでは不充分だ。大宇宙の心臓部さえも知悉すること、
それが星座を介して生物を生み出し支配する方途を
認識すること、そしてアポッローンの調律に従い
それを詩に語ることはいっそう激しい喜びとなる。」(1.13-19)
つまり、星座の分布や天体の動きに関する知識だけでなく、それらがいかなる力をもって地上に働きかけるのかという問題にまで踏み込んでいく必要がある、言い換えれば「天文学」の知だけでなく「占星術」の知をも身につけて初めて宇宙について知ることができる、と詩人は宣言しているわけです。
それゆえ、本書には古代の宇宙に関する知識のすべてが書かれています。「教訓詩」と呼ばれる韻文としてそれを綴った本作は、きわめて貴重な古典にほかなりません。残念なことに、本作にはラテン語原典から韻文の形で日本語に訳出したものは存在しませんでしたが、気鋭の訳者を得て、ここにその偉業が成し遂げられました。星空を眺め、宇宙に思いを馳せながら、ぜひ手にしていただきたい1冊です。
[本書の内容]
第一巻
第二巻
第三巻
第四巻
第五巻
訳者解説
訳者あとがき
図 表