砥石で潤う豊かな村には、禁忌の“掟”が存在した――
隠密同心が御神体の正体と村の悪事を暴く!
因習に囚われた人間の愚かさと哀しさを描く傑作時代小説。
これは龍神の眼じゃ。富を生む砥窪の安寧と長命になる蓬をくださる。
隠密同心の長澤多門は、小日向藩石場村へ赴いた。そこは上物砥石を産する豊かな地。奉行所から、翡翠のごとき美しい砥石の闇取引根絶のため、探索を命じられたのだ。
砥改人に扮して潜入するや、多門は次々と奇妙な風習に遭遇する。信仰を集める「おりゅうさま」と絶対に入ってはいけない禁足地の存在、男たちが二十五歳で長寿の祝いをすること、夜中にしか表に出ない不思議な兄弟――。
だが、ある女の死によって、多門の前に村ぐるみの罪業が浮かび上がる……。