初期般若経典に、初めて論理的学説を与えた古代インドの名僧・龍樹(150-250、あるいは100-200)。主著『中論』は約450の偈、27の章から、あらゆるものの存在を否定しつくし、反対論者への反駁も執拗にして圧倒的だった。その非常に難解で、さまざまな解釈や誤解を生む古典的名著を、「聖なるもの」「俗なるもの」という2方向のヴェクトル概念を用いて、根気強く考察。インド哲学の泰斗が若かりし頃に記した、エネルギー溢れる筆致が、「俗」から「空」、「悟り」「聖なる世界」へ解脱の境地へと誘う!
はじめに、より
現代に生きるわれわれにとって『中論』が何を教えるのか?
千数百年後のわれわれにまで、直截に伝わるほどの気迫を込めて、龍樹が追求したものはなんだったのか。
さまざまな領域、次元でさまざまな見解があり得るであろう。
しかし、どのような場合においても龍樹が言わんとしたところをできる限り正確に受けとめることから出発しなければならない。 (巻頭言要約)
目次
はじめに
第1章 『中論』における「聖なるもの」と「俗なるもの」
1 『中論』の歴史的位置
2 『中論』の思想的位置
3 『中論』における世俗と最高真理
第2章 「空」の構造
1 「俗なるもの」の構造
2 「俗なるもの」の否定(一)
3 「俗なるもの」の否定(二)
4 「俗なるもの」の否定(三)
5 「俗なるもの」の否定(四)
6 「俗なるもの」から「聖なるもの」へ
7 「聖なるもの」から「俗なるもの」へ
8 「俗なるもの」の聖化(一)
9 「俗なるもの」の聖化(二)
むすび
あとがき
学術文庫版あとがき
索 引
本書の原本は1986年11月、「空」の構造 『中論』の論理 として、第三文明社 レグルス文庫より刊行されました。