“死者の谷”から生還した元兵士の心の叫び。
戦争末期、雲南の地で日本人兵士がほぼ全滅した騰越・龍陵の戦い。そこからほど近い旧ビルマの“死者の谷”フーコン谷地でも、全滅の危機に瀕している部隊があった。
――ああこれでは勝負にならない、と一等兵でも思う。そう思いながら戦闘をしたのであった。敵は……必要な条件を整えたうえで戦った。こちらは、弾がなくても、食糧がなくても、とにかく、やれと言う。……弾がなくても食糧がなくても、一人が二十人殺せば二十倍の敵に勝てるわけだから、そうしろと言う。――
六割以上が亡くなった無謀な戦いから、片腕と引き換えに生還した村山辰平は、あの戦闘で夫を亡くした中川文江とともに、フーコンで自分がたどった場所を地図に記していく。それは、将官への怒りを新たにする作業でもあり、「諦めながら恨む」作業でもあった。
第48回菊池寛賞に輝いた古山高麗夫戦争三部作の完結編。