一一八六年。平家一門の生き残りである、亡き平頼盛の長男、保盛はある日、都の松木立で女のバラバラ死体が発見された現場に遭遇する。生首には紫式部の和歌「めぐりあひて 見しやそれとも わかぬまに 雲隠れにし 夜半(よは)の月かな」が書かれた札が針で留められ、野次馬達はその惨状から鬼の仕業だと恐れていた。そこに現れた、保盛の友人で和歌を愛してやまない青年歌人・藤原定家は「屍に添えて和歌を汚す者は許せん」と憤慨。死体を検分する能力のある保盛を巻きこみ、事件解決に乗り出す! 後に『小倉百人一首』に選出された和歌の絡む五つの謎を、異色のバディが解く連作ミステリ。/【目次】「一 くもがくれにし よはのつきかな」紫式部の和歌が添えられた屍は、なぜバラバラにされていたのか?/「二 かこちがほなる わがなみだかな」若き西行が遭遇した、密室からの人間消失の真相は?/「三 からくれなゐに みづくくるとは」河原に捨てられた屍は、なぜ在原業平の和歌に見立てられたのか?/「四 もみぢのにしき かみのまにまに」都を襲った大火の真相を解く鍵は、菅原道真の和歌?/「五 しのぶることの よわりもぞする」衆人環視の中、式子内親王の周りにいた女房たちを殺した方法は?/あとがき/参考文献・史料