原子力の世界(原子力業界)は、一般の人から縁の遠い謎めいた世界。福島原発事故が起きるまで、日本の原子力関係者は「原発で大事故は絶対起こらない」と本気で信じていた。そのような原子力関係者のリアルな生態系を、行動科学(認知バイアスや集団心理)と技術者倫理の研究者らがわかりやすく解説する。
様々な原子力関係者のインタビューを通じて見えてきたのは、人間には到達できないゼロリスクや無謬(むびゅう)を追い求めた結果、皮肉なことに安全対策が疎かになったという複雑なストーリー。
ゼロリスクや無謬を目指せば必ずしも安全性が高まるわけではなく、逆に安全性が低下する場合もある。それが福島原発事故を招いたのではないか。
人間や組織には限界があるにもかかわらず、その限界を認めずに理想を目指す姿は、福島原発事故後も変わっていない。
福島原発事故という大きな失敗から私たちが学ぶべきことは、「人間には到達できない理想を追い求めても、いずれ破綻する」という事実。
本書で取り上げている「安全神話」と「無謬神話」は、どんな業界でも起こる可能性がある。
原子力関係者のみならず、産業安全や組織マネジメントに関わる人々にとって、安全や組織のあり方を見直すきっかけになる一冊。
原子力の世界は極めて不合理で、常識では考えられないようなことがたくさんある。
そのような世界に住んでいる原子力関係者たちの言動をよく観察してみると、人間や社会の本質に関わる重要な事実も発見できる。
原子力の世界は不合理だらけ。でも、意外と奥が深くて興味深い世界でもある。