新しい世を担う有能な構成員(フォロワー)こそが、優れたリーダーを作り出す!
本書は、2020年1月のNHK「100分de名著」のテーマとなり、大好評を博した出口治明氏による『貞観政要』を語りつくしたテキストに「特別章」を付した、出口ファン待望の書籍化である。
大唐帝国の最盛期をつくりあげた皇帝・太宗(李世民)と、そのもとに集った優れた臣下たちの問答をまとめ、リーダー論の最高峰とされる『貞観政要』。その『貞観政要』を生涯の座右とする著者は、「どんな人にも役立つリーダー論」であると説いている。「どんな人にも」というのは、実際のリーダーを担う人だけでなく、「リーダーについていく人たち(著者の言葉では「フォロワー」)にとっても役に立つ」ということである。
豊富なエピソードの数々から例を挙げ、以下のように解釈し読み進めている。
「君主(リーダー)は実際に生産活動を行う人民(フォロワー)によってはじめて支えられる寄生階級に過ぎない」
「リーダーとは機能にしかすぎず人として偉いわけではなく、組織・チームを回すために割り当てられた役割であり、リーダーとフォロワーは、チーム(組織)においてたまたま違う役割を担っているに過ぎない」
……などである。
ほかにも、リーダーにとって優秀かつ勇敢な「諫言(意見具申)」ができるフォロワーがいかに重要なものであるか、組織にとって「記録」は、権力による干渉なく遺し続けることがいかに大切であるか、なども語られる。加えて太宗の率先垂範に努めた例などを縦横に引きながら、フォロワーがだらしなかったり覇気がなかったりするのはリーダーの行いや決定が悪いせいであること、リーダーとフォロワーには「共通テクスト(教養)」が必要であること、さらに、法を人によって例外を設けて枉げてはならないこと、組織の「創業」と「守成」は異なるといった、現代にも通じる事例を、次々と魅力的に語っている。
書籍化に寄せた「ブックス特別章」では、太宗は、今日的な言葉でいうダイバーシティや多様性を重視した人であったが、それを今日的な意味でそのまま牽強付会的に理解してはならないこと、優れたリーダーを生み出すためにはフォロワーの側の優秀さもまた必須条件であり、フォロワーの側に回ることの多い私たちを戒める内容も、太宗や唐の例だけでなく、世界史全体に目を向け語られている。
以上のように、長年「100分de名著」テキストも含め、『貞観政要』について発言を続けてきた著者が、「大学学長」という大きな任務を終えるなかで、番組出演以降の環境の激変で得た視点も交えつつ、普遍的な視野から『貞観政要』を通して、組織と人間の在り方、そしてどう充実した人生を送るべきかを説く一冊となっている。