「……私、どうして呼ばれたの?」
イーディスは孤児院で唯一の肉親である弟と貧しく暮らしていたところ、突然、王城に連れてこられた。
イーディスの魔力は微々たるものしかないのに、神託とやらがくだり、どうやら聖女だったことが判明する。聖女として魔王を倒すため必死に訓練に明け暮れ、やっと中級魔法が1~2発打てるようになったところで旅に出発した。
ところが、旅に出たのはいいものの、同行するメンバー達が全員有能であり、イーディスは全く役に立つことができず、いつもから回ってしまう。
特にパーティーに参加している侯爵令嬢クリスティーヌが非常に優秀で、「彼女のほうが聖女ふさわしい」「足手まといだ」とメンバーにさんざん馬鹿にされつつも、案の定、クリスティーヌの活躍で無事魔王を討伐することができた。
そのうえ、帰国してみると自分の命より大切に思っていた弟は亡くなっていた。イーディスは誰からも「頑張ったね」と一言褒めてもらえることもなく、帰る場所も用意されていなかった。弟を失った悲しみと旅の疲れが癒える間もなく、まるで厄介払いをされるかのように、「一番の色狂い」「人食い伯爵」と呼ばれている辺境伯の妻になれと、粗末な花嫁衣裳を着せられて荷馬車で追い出されてしまう。
「馬鹿みたい……」
こんなところから逃げ出して一人で生きてやると、イーディスは窓から飛び降りた。絶望的な現実からの脱出を夢見て――。
これは、禁忌とされる未来視をしたクリスティーヌのせいで“お払い箱になった聖女”イーディスの物語である。
※『払いの聖女~悪役令嬢が無双したあとの世界で生きていく~(1)』には、電子書籍版書き下ろし短編「指輪を貴方に」を収録。
『払いの聖女~悪役令嬢が無双したあとの世界で生きていく~(1)【分冊版】3』には『第六話 夢』~『第八話 洞窟のなかで』(前半)までを収録