【第170回 芥川賞候補作】割りあてられた「男」という性別から解放され、高校の演劇部で人魚姫役を演じきった。そんな真砂(まさご)が「女の子として生きようとすること」をやめざるをえなかったのは――。『人魚姫』を翻案したオリジナル脚本『姫と人魚姫』を高校の文化祭で上演することになり、人魚姫を演じることになった真砂は、個性豊かな演劇部のメンバーと議論を交わし劇をつくりあげていく。しかし数年後、大学生になった当時の部員たちに再演の話が舞い込むも、真砂は「主演は他をあたって」と固辞してしまい……。自分で選んだはずの生き方、しかし選択肢なんてなかった生き方。社会規範によって揺さぶられる若きたましいを痛切に映しだす、いま最も読みたいトランスジェンダーの物語。