少女の夢と絶望は、機械の中に結実する。誰もが忘れても、僕は忘れたりしない。記憶と夢をめぐるSFファンタジー。「職種は機械技術者……条件は、親族係累がなく、秘密を厳守でき、感情の揺れがないこと、だそうだ」《夢想機械(トラウムキステ)》…「夢の函」を意味する美術品の素材は、人間の女性。機械化された脳から再生される美しいイメージをガラスの箱の中に具現化する稀少な機械人形。貧民街シュラムで古書商の祖父に育てられたリュカは、祖父の死後街を出て奨学生となりエリートコースを歩む。そして、違法美術品《夢想機械》を生産する秘密企業トロイメライで、孤高の技術者トリストランの助手として働くことになる。大気汚染と社会的階層化が進む都市ミラグロスで、引き寄せられるように選んだ住居はルームシェア住宅《キャッスル・ミトン》。過去の遺物である紙の書物で埋め尽くされた部屋で、人気地下アイドルとして活動する家主のタマエをはじめ、癖のある住人たちが家族のように暮らしている。運命に抗わず一人で生きてきたリュカはある日、新しく担当する「素材」として、シュラム時代の幼馴染アミカと再会する。7歳で娼館に売られ、リュカに再会することだけを望みに生きてきたアミカ。はじめて対峙する運命の先に、記憶の扉は開かれる――