風変わりな冒険に放りこまれた
クルド人、アラブ人、アメリカ人、イギリス人が、
おずおずと最初の一歩を踏みだした。
誰もがおたがいをちょっと警戒し、でも少しだけ信頼していた──
本書の主人公はスコットランドの指揮者ポール・マカランダン。
2008年、バグダッド在住の17歳のピアニスト、ズハル・スルタンが
「マエストロ求む」と呼びかけた新聞記事に目を留めたことをきっかけに、
イラク・ナショナル・ユース・オーケストラの音楽監督に就任する。
オーケストラの設立に尽力し、YouTubeでオーディションをおこない、
ファンドレイジングにかかわり、イラク国内はもとよりヨーロッパ各地に招かれて演奏ツアーを敢行。
2014年にISIL(イスラム国)の台頭にともなう国情の悪化によって解散するまで、
ともすれば不安定な政情や他国人の無理解、民族間の感情的軋轢などによって迷走しながらも、
世界に向けて高らかに「音楽の力」を謳い上げた
イラク・ナショナル・ユース・オーケストラとポールの7年間を克明に描き出す。
序文=サー・ピーター・マクスウェル・デイヴィス
解説=樋口美治(中東音楽研究家)