なごやかな夕食もほぼ終わった頃、大久保がスーツの上着に再び袖を通したかとおもうと、あらたまった口調で、「お食事中失礼しますが、聴いていただきたいのです」ときりだした。同時に通訳はぬきでいいよとばかり、ゼスチャーで輸出担当の大田に合図を流している。
「プロジェクトの営業責任者に先日中国視察から帰国した岩崎譲治君を推したいのですが、みなさん、如何でしょうか」大久保の口もとに目を凝らしていた全員が、譲治に視線を移す。唐突でいかにも大久保らしい。A社の参加者が当惑を隠せないのももっともである。何しろ人事の話である。
譲治、否、すべての参加者を「アッ」といわせた。青天の霹靂とは、こういうことか。(本書 第2章より)