人間の欲を浮き彫りにする社会派ミステリー。
「工場はおそろしい水銀の水を流している。魚は獲ってはいけない。獲った魚を喰えば死の病いにとりつかれる。
そうだ、この海……この暗い海の底から、目に見えない何ものかが牙をむいて迫っている」
不知火海沿岸で発生した奇病“猫踊り”。魚や貝を食べると、猫はもちろん、人間までも前後不覚になり死んでしまう恐ろしい病気だ。その実態を調べるために東京の保健所から来た男が行方不明になる。警察医・木田民平は勢良警部補とともに、工場や投宿した旅館などを探るが、男はやがて鴉についばまれた死体で発見される。
男はなぜ殺されなければならなかったのか。そこには、さまざまな“欲”が、複雑に絡み合っていた――。
日本中を震撼させた水俣病を題材にし、直木賞候補にもなった衝撃作。