父が消えた理由について、信次はすこしずつ周囲の噂を知るようになった。正確に言えば父は消えたのではなく「死んだ」のだが、信次はそういう言葉を遣いたくなった。「警察では、わからなかったそうだ」村の誰かがそんな話をした。何かが父を奪ったのだとわかる年齢になってきた。その何かが誰なのかというより、どうしてそんなことをしたのかを知りたかった。(「赤い竹蜻蛉」より)
昭和の古いおもちゃを題材に、少年の成長を葛藤を描く。十篇のファンタジック・ロマンを収録した作品集。
*赤い竹蜻蛉
*蒼い喧嘩凧
*星空の缶蹴り
*淡い影絵
*白い日光写真
*燃え尽きた逆さ面
*ぱっちん
*永久影踏み
*だるまさんが転んだ
*遠い糸電話
●薄井ゆうじ(うすい・ゆうじ)
1949年茨城県生まれ。イラストレーター、デザイン編集会社経営を経て作家へ。1988年『残像少年』で第51回小説現代新人賞を受賞。1991年に初の長篇『天使猫のいる部屋』を発表。1994年『樹の上の草魚』で第15回吉川栄治文学新人賞を受賞。映画化・舞台化・ドラマ化された作品も多い。