神田神保町で「本の探偵」の広告を掲げて古書店を営む須藤の元に、蔵書家の医者から三十年近く前に失踪したある人物を探して欲しいという依頼が舞い込んだ。その名を森田一郎といい、戦後期に日本の文化復興に尽力すると称して、稀覯書といいつつその実わいせつ文書刊行に携わった結果、検挙されたあげく有罪となり、その後姿を消したという。左翼劇団の俳優や中国のスパイだったと噂される経歴を持つ謎の男を、須藤は古書を糸口として探索に乗り出すが……ロス・マクドナルド作品を彷彿とさせる傑作長編ミステリ。(『古本屋探偵の事件簿』分冊版)/解説=門井慶喜