あらすじ百年も前に書かれた風俗小説で忘れられずに生き残っているのはリング・ラードナーとデイモン・ラニアンくらいのものだ。その理由はなにか。当時の「生きた庶民の声」をとらえたことで、いつの時代にも通じる庶民の感情を再生したからだ。それは語り手と語り口の絶妙な融合からくる。彼のすべての作品は「語り手」の一人称形式で語られる。その語り口がまさしく「生きている」のである。そこにあるのはすべて現在で、過去や未来はそこにはない。本書のタイトル「街の雨の匂い」は夜明け前の冷たい舗道が好きだと歌った賭博師の言葉だ。