訳者はまず読者に、これらの物語を楽しんでもらうことを願っている。元来、私は面白い物語、巧みな話が好きであり、それは日本の落語からはじまり、やがてモーパッサン、モームからラードナーやフォークナーやマラマッドまで、いまだに私を追いたててやまぬ。ラニアンももちろんその一人で、私の楽しみ方は、フォークナーにたいする時も少しも変わらない。最初の動機はこんな面白い作品を訳したかったのだ。あのジャズ時代という不思議な一時期を、裏側からユーモアとペーソスと大胆さとで描いたラニアンの物語は自分だけで楽しむばかりでなく、その楽しさを日本の読者に伝えたい。