あらすじ「ヘッヘッ、親分、今晩は」ガラッ八の八五郎、箍《たが》のはじけた桶《おけ》のように手のつけようのない笑いを湛《たた》えながら、明神下の平次の家の格子を顎で平次に言わせると開けて入るのでした。それは両の手で弥蔵《やぞう》をこしらえて、格子をまともに開けられるはずはないからだというのです。五月のある日、爽《さわ》やかな宵、八が来そうな晩でしたが、お仕着《しき》せの晩酌を絞って、これから飯にしようという頃になって、ようやく個性的な馬鹿笑いが、路地の闇をゆさぶるのでした。