「…お前、身体洗ったばかりか? せっけんのいい匂いがする…」1944年9月。太平洋戦争のまっ只中――海兵団出身の搭乗兵・田中志津摩二飛曹は、喜びを隠せずにいた。ようやく憧れの絹の白羽二重のえり巻が届いたからだ。配給から受け取ったえり巻を大事に抱え、心躍らせながら歩いていると、ふと、夜空を見ながら煙草をくゆらせる人がいた。不思議に思い声をかけた、志津摩は直後後悔する。その人が、八木正蔵中尉だったからだ。八木は、下の者に容赦なく鉄拳制裁を下すため、志津摩たちの間で恐れられていた。話しかけてしまった手前、逃げ出すこともできず、しぶしぶ話に付き合うことになってしまった。何を見ていたのかと問う志津摩に、ただ郷里を思い出していたと答える八木。ただの世間話だったはずが――「…お前、身体洗ったばかりか? せっけんのいい匂いがする…」「八木さんも…何やら、いっいいにおいします!!」そうして、夜が始まった――。特攻隊を舞台に繰り広げられる、漢たちのアツき魂のいななきを、濃厚な筆致と人物描写で描きあげるオムニバスストーリー、殉情の第四夜。