日本酒は「米」と「水」と「麹」を原料にして造られます。しかし、例え同じ米を使っても同じ味わいの酒にはなりません。米の品種、精米歩合、仕込み水、酵母が全く同じでも、造る人が違えば同じ味わいにはなりません。酒は造り手の個性、人格を反映するのです。まったくもって日本酒とはファジーな、手造り製品です。瓶詰めした後にも熟成しあるいは劣化します。また、冷酒、常温、人肌燗、ぬる燗、熱燗と飲用温度によっても風味は変わってきます。つまりは、柔軟性に富んだアルコール飲料です。よく「懐が深い」と評価されていますが、それだけ繊細で奥深いということなのでしょう。本書では代表的な原料米を使った銘柄、特筆すべき酵母で醸した銘柄、四大杜氏と呼ばれる流派の名杜氏(とうじ)が手がけた銘柄などを中心に紹介しています。また昔ながらの生もと造りや山廃(やまはい)仕込みにこだわる蔵元、特異な信念のもとにスパークリング日本酒やにごり酒、古酒造りに徹する蔵、そして海外で高い評価を得ている銘柄について、厳選して紹介しました。東京オリンピックを機に海外から訪れる旅行者が増え、和食とともに日本酒への関心が高まりを見せる昨今、ビジネスシーンでも日本酒が話題に上る機会も多くなっています。知っておくと便利な日本酒のあれこれが詰まった文化、教養の一冊です。