本書は17世紀スペインの哲人バルタザール・グラシアンが、人間社会を生き抜く知恵を300の箴言にまとめた『賢人の知恵』の全訳である。グラシアンはイエズス会の修道士、著述家、哲学者であり、国王の顧問を務めた。その明快にして深淵なる箴言集は、徳哲学の集大成として本国スペインのみならず、ヨーロッパ各国で高く評価された。とくにドイツの哲学者ショーペンハウアーは強い感銘を受け、この箴言集をドイツ語に忠実に翻訳した(本書はこのショーペンハウアーの訳書を日本語に翻訳したものである)。――けっして激昂しないというのが賢者の眼目である。それが可能な人物はそれこそ広い心をもった大人物であると見なされる。なぜなら全て巨大なものは容易には動かしがたいからである――(本文より)。400年もの間読み継がれ、多くの知識人に影響を与えたグラシアンの人生訓は、現代人の心にも強く響いてくる。