本書は、皇帝ナポレンが、様々なジャンルの人たちと語り合った、生々しい対話集である。ともすればナポレオンは、英雄として、また独裁者として、実に多様に語られてきたゆえに、「偶像的な存在」になりかねない面がある。しかし、この対話集からは、彼の人間性、哲学、性格といったものが、如実に現れている。その点、ナポレンオンに興味を持つ読者にとっては、とても運は貴重な資料といえる一冊である。本書の中でナポレオンが対話をしているのは、主に彼の絶頂期直前から、没落、そして最期までの期間であるが、その相手は実に多様である。詩人・アルノー、枢密顧問官・レーデラー、秘書・ブリエンヌ、外交官・コレンクール、文豪・ゲーテ、若き女優・ジョルジュ、弟ルシアン、オーストリア宰相・メッテルニヒ、外科医・ワーデン……。したがって、対話の内容は戦争、政治、マスコミ、結婚、芸術、医学に至るまで、実に幅ひろい。