1970年代、アメリカでは糖尿病患者が増え続け、当時ウシやブタから抽出して入手するしかなかったインスリンの供給不足が危惧された。打開策は、バクテリアにヒトインスリン遺伝子を入れてインスリンを生産させること。このテーマに天才たちが挑み、壮絶な戦いが繰り広げられた。のちにノーベル化学賞を受賞した科学界の巨人ウォルター・ギルバート、わずか1000ドルの出資金で生まれたベンチャー企業ジェネンテック社、そのチームに参加した日本人研究者・板倉啓壱……。この戦いが遺伝子工学という新しい科学分野の礎となり、バイオテクノロジーという巨大産業を生むきっかけになったのである。科学史上に残る研究競争を、アメリカで板倉啓壱の指導を受けた著者がドラマチックに語る。