イエス・キリストとは何か? トマス・アクィナスの「神学大全」の註解を通して、彼が独自な存在論の観点からイエス・キリストを存在と働きの両面から総合的に捉えていることを解明した、新たなキリスト論展望。
「我は誰なりと思うや」とのイエスの問いに、弟子たちは「生ける神の子キリストです」と答えた。「イエス・キリストは真の人間であり神である」という使徒伝承はキリスト論の原点であり、その教義(ドグマ)は4世紀から6世紀にかけて異端論争を通して形成されてきた。トマス・アクィナスは「神学大全」第3部でキリスト論の全貌を語っているが、著者はその註解の仕事を通して、トマスが独自な存在論の観点からイエス・キリストを存在と働きの両面から総合的に捉えていることを解明し、その独創性を高く評価する。近世以降に盛んになった歴史的実証的なイエス伝研究の限界を明らかにして、新たなキリスト論を展望し、さらに信仰と理性のあり方を平易にといた講演。
【目次】
「長崎純心レクチャーズ」について 片岡千鶴子
第一日
I キリスト論とは
1 キリスト論とイエス伝
2 連続講演のプラン
II 使徒的伝承
1 キリスト論のはじまり
2 「神の子」の意味
3 使徒的伝承
4 パウロ
5 ヨハネ
6 グノーシス
III 教理史から
1 アリウス派論争
2 ネストリウス派論争
3 キリスト単一性論
IV 東西教会の分裂
1 分裂以前の東西教会
2 アウグスティヌスとFilioque
第二日
1 ヨハネ福音書とロゴス
2 翻訳の問題
3 ロゴスと神の同一性と区別
4 ヒポスタシスという言葉
5 ギリシアの神秘主義の伝統
6 受肉とキリスト論
7 キリスト論の難問
8 ダマスケヌスによる総合
9 トマスの独創性
10 トマスの存在論
11 エッセと「いのち」
12 イエス伝の問題
第三日
1 トマス以後のキリスト論
2 ドグマ的キリスト論への批判
3 ハルナックの教理史
4 ドグマとは何か
5 ドグマを決定するもの
6 ドグマの言葉
7 聖書の問題
8 存在論とドグマ
9 イエス伝への反省
10 トマスの現代的意義
あとがき
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