胃弱だった漱石が作品にちりばめた食のかくし味!――『吾輩は猫である』の牛鍋屋、『坊っちゃん』で清がくれた金鍔(きんつば)。 作品の中に出てくる洋食と日本の家庭食の意味は? 明治から始まる日本人の激動期を、食文化の視点から考察する!
●『吾輩は猫である』の家庭食
●胃弱な漱石と苦沙彌(くしゃみ)先生
●『坊っちゃん』と天麩羅蕎麦
●博覧会と『虞美人草』
●三四郎が行かなかった食堂車
●明治家庭のカレーレシピ
●本格仏料理店、精養軒
●『明暗』のりんごは何県産か
●サンドイッチとビスケット
●漱石は最期に何を食べたのか
「漱石といえば胃が悪く、酒も弱い。ろくなもの、食べていなかったんじゃないのか?」
そんな疑問を抱かれる向きもあろう。
しかし、漱石だってやはり人間。食べてきたのである。彼が生まれたのは、まさに日本の夜明け。詳しくは本編と年譜を見ていただきたいのだが、江戸から東京に変化し、日本が西洋の料理をどんどん取り入れていく過渡期に彼は生きていた。そして小説のなかに、彼自身がつぎつぎと出合っていったさまざまな食べ物を書き込んでいったのである。
漱石を読むと、新しい食べ物を前にして、ときに驚き、喜び、ときに懐疑的に対峙した明治の日本人がみえてくる。それは、とても新鮮である。