19世紀フランス演劇界はウジェーヌ・スクリーブに明け暮れたと言っても過言ではない。歌って踊るヴォードヴィルという新しい演劇ジャンルを作るとともに、5幕のフランス喜劇を量産するばかりか、グラン・トペラ(本格オペラ劇)の台本を提供した。残念ながら日本ではスクリーブの演劇は全く翻訳されなかったため、『貴婦人たちの闘い』は本邦初訳になる。スクリーブは共作することが多く、この戯曲も女性の権利擁護者であり、劇作家でもあったエルネスト・ルグヴェとの共作である。1817年王政復古下の騒然たるフランスで貴族社会に生きるドートルヴァル伯爵夫人を中心とした王党派とナポレオン派の知恵比べと恋の駆け引きを巧みに組み合わせた「良くできた芝居」になっている。