は一日に何度も分かれ道に立っている。そして、一日に何度も、ほとんど意識しないまま、悩むこともなしに、どちらの道を行くべきなのかを瞬時に決めている。
たとえば、今朝はどのスーツを着て会社に行くのかを決める。たとえば、職場に設置された自動販売機の前で、コーヒーを飲むのか、紅茶にするのかを決める。
たとえば、昼の食事はカツ丼にするのか、天ぷら定食にするのか、それともファストフードにするのか。多くの場合、どちらを選んだとしても、人生が大きく変わることはない。ほとんどの道はどこかでまた合流し、結局は同じところに向かうのだから。
けれど、時には、その無意識の選択が人生を決定的に変えてしまうこともある。この作品は、そんな分かれ道を題材にした連作短編集である。