昔むかし、京の都には鬼のような姫がいた。
慶長4(1599)年、京の都には鬼のような姫がいた。あやかしとの間に生まれた娘であるという噂や、そもそも女性らしからぬ……どころか人間離れした強さから「あやかし姫」とささやかれた、悪名高い姫君である。
さて、この国には陰陽師というものが存在する。朝廷に仕え、暦を作り、吉凶を占い、怪異を退ける術者だ。
「あやかし姫」こと幸徳井桜子は、陰陽師家として高名な安倍家と加茂家の流れをくむ幸徳井家の跡継ぎ娘。婿とりの必要があるが、その条件は「自分がいじり倒しても死なない男」。もはや誰とも結ばれないのでは……と思われていたところ、このたびようやく婿が決まった。
名は柳生友景、柳生一族の剣士の青年だった。
桜子のお眼鏡にかなったのだから強いことは強いのだが、友景はびっくりするほど地味な男でおまけにぐうたら。
「陰陽師の仕事は面倒だから嫌いなんだ。剣術も疲れるから嫌いなんだ」
「呆れた。じゃあ何が好きなのよ」
「お前が好きだよ」
そこに愛はあるが、友景は「桜子が妖怪だから好き」らしい。複雑な気持ちを抱えたまま、祝言の日が近づいて……!?