日本の教育学の泰斗として知られる著者が、学生時代から一貫して取り組んできた「自己意識論」を集大成としてまとめた論集の最終第5巻。
人は他人との比較において、ともすると誰もが同じ共通の世界で同じように生きている、と考えてしまう。しかし、一人ひとりの見ているもの、一人ひとりにとっての「現実」は、全く異なったものである。自分にとっての「当たり前」が他人にとっては「当たり前」でなかったり、自分にとっての「現実」が他人にとっては「現実」でなかったり、ということは日常茶飯事であり、当然至極のことである。
一人ひとりが一人きりで生まれ、毎日の生活を通じて自分だけの体験を積み重ねていき、その人に特有の感性やこだわりを形作っていく。類似した「現実」を持っているように見える場合であってもその内実は一人ひとりで全く異なってくる。こうした個々人の持つ「現実」の根本的相違を重いものとして受け止めるかどうかが、真の人間理解を進めていくうえでのポイントである。
第5巻では、一人ひとりが個別に持つ内面世界について考察し、共同幻想にふりまわされることなく、人間理解を深め、いかに自分の「現実」を生きるかを説く。
また、『徒然草』や千利休、聖徳太子、親鸞ら先人の教えをひもときながら、内面世界を豊かに育て整えるためのヒントを呈示する。