日本の教育学の泰斗として知られる著者が、学生時代から一貫して取り組んできた「自己意識論」を集大成としてまとめた論集の第3巻。
自己意識の問題は、アイデンティティ、自己概念、自己イメージ、自尊感情などの形で論じられ、現代の心理学・社会学・教育学などにおいて、最も重要な課題の一つとされてきた。
本書では、アイデンティティの確立について、三つの段階を提示している。
第一段階は、家族や友人を通しての原初的な存在の確認。
第二段階は、職業やジェンダーなど社会的ラベリングによる位置づけ。
「世間」が重い意味を持つ日本のアイデンティティ論は、従来、この第二段階で終わりがちであった。
しかし、もうひとつ、第三段階を考えなくてはならないと著者は主張する。
志向する自己像を投影した、他者への宣言としてのアイデンティティである。
さらには、晩年の良寛のような「私なんて何者であってもええやないか」という超アイデンティティの境地にも思いをめぐらす。
個々人の意識世界のあり方について、「自分自身を生きていく」ためのものにしていこうとする様相を、さまざまな角度から論じている。また、アイデンティティを論じる上で欠くことのできない、宗教および宗教教育についても、日本文化の特性と自己意識の観点から深く論じていく。