地域批評シリーズで千葉県の取材を開始したのは、『日本の特別地域
14これでいいのか千葉県東葛エリア』が刊行された2010年。以来、
10年以上にわたり、千葉県全体のほか、千葉市や船橋市、松戸市や柏市といった、県内の主
要都市にもスポットを当ててきた。なぜ千葉にこれだけこだわってきたのかと
いえば、当シリーズの素材として興味深い土地だから。千葉は同じ県内でも、
エリアによって住む人の行動パターンや、地元への帰属意識が全然違うのだ。
千葉県内でも特異なポジションにおかれているのが、東京・埼玉・茨城に隣
接した東葛・葛南エリアである。これらのエリアは、首都圏のベッドタウンと
して人気が高く、とくに葛南には有名不動産会社が毎年発表する「住みたい街
ランキング」にもたびたび名を連ねる街もある。一方で2010年前後はまだ
まだ発展途上だった東葛も、つくばエクスプレス開業による人口増加の波に乗
り、かつては水をあけられていた葛南に匹敵するほどの発展を見せている。
これらのエリアは千葉というより、もはや東京の一部と化しており、同じ千
葉県民から「東葛や葛南を千葉とは認めない!」なんて声が上がることもある
ようだ。実際、人気に釣られて移り住んできた新住民のなかには、自分たちが
千葉県民だという意識が薄い人が多く、彼らはたびたび「千葉都民」などと揶
揄されてきた。
それだけの羨望や嫉妬の眼差しを向けられ、今や「首都圏最強ベッドタウン」
としての呼び声も高い東葛・葛南だが、果たして、その実態は噂されているほ
ど素晴らしいものなのだろうか? 本書では、東葛・葛南の歴史やその成り立
ちを振り返りつつ、そこに住む人たちの特徴や生態、直面している問題などを
多角的に分析・解説した。
コロナ禍に翻弄される激動の令和時代、ベッドタウンとして発展した東葛・
葛南は、今後、街の在り方をどのように変化させていくべきなのか。その舵取
りの方向性も模索していこう。