島根県は、「どこにあるかわからない都道府県」と揶揄されるくらい、国内
での存在感が希薄だ。首都・東京では「砂丘のあるところ」なんて、同じ山陰
の鳥取県と誤解されるほどで、島根県としてのイメージはほぼ皆無。その要因
は立地にある。交通インフラが脆弱で、とにかく現地に行きづらいのだ。それ
はまるで「陸の孤島」。日本に残された最後の秘境と言う人までいる。
こうしたイメージの形成には、明治以降の近代産業化に遅れ、戦後の高度経
済成長期においても、中央から完全にスルーされてしまったことが大きく関係
している。鉄道の敷設は山陽地方に比べて
20
年以上遅れをとり、次第に発展す
る広島県や岡山県へと人口は流出していった。地元には目立った産業もないま
ま、松江・出雲市民を除く県民たちは、漁業や農業といった第一次産業で生計
をやりくりするのが基本となった。というわけで農業立県を目指したものの、
食品貿易が進んだために、その野望もあえなくご破算。そのため一家丸ごと離
県するケースも相次ぎ、戦後から現代に至るまで、ほぼ一貫して人口減少を続
けている。結果、
65
歳以上の人口割合は全国3位と高く、人口増減率はワース
ト
11
位(2015年国勢調査)と、典型的な少子高齢化社会となっている。こ
う言っちゃなんだが、島根県は近代以降ずっと苦杯を嘗め続けてきたのだ。
時代に取り残されてきた島根県。だがそれゆえに古くから残る風土や慣習、
手つかずの大自然や歴史的遺構など、オリジナリティ溢れる魅力が少なからず
残っている。徹底した管理体制で保護される世界遺産・石見銀山や、老若男女
を問わず全国から参拝者が訪れる出雲大社は県民の自慢。グルメだって新鮮な
魚介類やソバなど「逸品」には事欠かない。交通インフラがいまだ不便で県内
各地の交流が乏しいゆえに、出雲、石見、隠岐の旧3国は独自の風土をいまだ
に残している。それぞれの街に根づいた歴史や気質は、古き良き「日本らしさ」
「日本の姿」といってもいいだろう。
本書では、島根県が抱えているさまざまな問題点を取り上げるともに、県民
が気づいていなかった島根県の本質や本来の魅力に迫っていく。果たして島根
県は自身が持っているポテンシャルを最大限に発揮し、存在感を高めていくこ
とができるのか? 一冊の紙幅を割いてその答えを論じていこう!