鳥取県は、日本の中でも極めつけの「特殊地域」だ。なんといっても人口が
ぶっちぎりで最下位。順位がひとつ上のブービー県はお隣の島根だが、それで
も
10
万人以上の差をつけられているというから、まさしく最弱王者である。
が、そんなミニ県にして個性は非常に強い。鳥取や米子は完成度の高い街だ
し、倉吉は「山陰の小京都」として名を馳せている。これらの街は、江戸時代
には北前船の中継港として賑わい、明治以降も大陸との貿易拠点として大もう
けしたりと、景気の良い過去をもっている。
そんな鳥取県は今、若者層から人気を集めている。観光では、大作家の水木
しげるにあやかった境港の「水木しげるロード」は関西圏から多数の人を集め
ているし、鳥取砂丘などのスポットの人気も衰えていない。また何より移住先
として人気が出ている。静かで暮らしやすく適度に田舎、でもそこそこ便利と
いう、都会に疲れた人々が鳥取に注目しているというのだ。
加えて2020年に広がった新型コロナウイルス感染症の拡大が、移住地人
気に拍車をかけつつある。人口密集地帯が「危険な土地」となった今、鳥取に
元々あった移住地としての魅力が、さらに大きくなっているのである。
ただ、これだけ人口が少ないということは、基本的に問題が多い土地である
ということも示している。かつての貿易港は、その地位を福岡や太平洋沿岸都
市などに奪われている。また、ほとんどが山地の地形のため、農業の規模も大
きくできない。工業生産にしても、そもそも日本の工業全体がトレンドではな
いし、新幹線などの高速の大規模輸送手段がないため、山陽エリアに比べて不
利は否めない。こうした負の要因があまりにも積み重なった結果、鳥取県は「相
当衰退している」といわざるを得ないのが現実なのである。
地域としての衰退と秘かな人気上昇という、矛盾する要素を抱えているのが
今の鳥取県の現状だ。果たしてその未来は明るいのか暗いのか。まったくわか
らないというのが実際のところである。
本書は、そんな謎多き鳥取県の本質や真相、そして未来を探るべく、地道な
取材と数多くの資料、データを基に分析した。そこで見えてきた鳥取県の意外
な実態や将来像とはどんなものなのか? しかと確かめてもらいたい。