練馬区を語るとき、必ず出てくるキーワードが「田舎」である。
確かに練馬の北西部は至る所に畑や果樹園が残る陸の孤島。
エリア全体には牧歌的な空気が色濃く立ち込めている。
さらに北に広がるのはサイタマ県だ。
そんなサイタマとのボーダーレス状態も、練馬の田舎感を助長する原因であろう。
しかしそこから南に下って、都心に近い「練馬地区」になるとかなり趣が異なってくる。
区役所のある練馬駅、そしていかにも東京の私鉄沿線の大学町といった江古田駅の周辺はゴチャゴチャとして、
下町風の商店街や貧乏学生をやさしく受け入れるボロアパートがある風景など、
歩くととても同じ練馬とは思えない。
そして練馬の中心地を抜けて東西に横断する西武池袋線の存在が足かせになり、
これまで練馬は南北間が断絶していたのだ。
その負の歴史が練馬には重くのしかかっている。
それはまるで呪いのように、以後、練馬が立てる計画はことごとく頓挫。
あるいは中途半端に終わっているのだ。
たった60年ぐらいの歴史で完成してもらっては面白くもなんともない。
街は乱雑でメチャクチャだったりするのに、
取材中、練馬区民から「練馬っていいトコだよ」「ずっと住みたい」という声を多く聞いた。
こんなところにも未成熟な練馬の可能性の高さを感じたが、
これは単なる住民の幻想に過ぎないのだろうか?
本書では練馬の現状を綿密にリサーチ!
練馬のさまざまな「やりかけ・ツギハギ・計画倒れ」を白日の下に晒していきたい。
こうした作業によって練馬区住民の生態をも明らかにし、
さらに練馬の本質に幾分かでも迫れたものと筆者は確信している。