多くの登山者が利用する日本の山小屋が存続の危機に瀕しています。これは、戦後に制定された日本の国立公園制度が抱え続けてきた課題が、新型コロナウイルス禍を経て、現実的な問題として表出し、制度が限界に近づいているひとつの証です。山小屋に切迫している数々の問題を紹介しながら、日本の国立公園、ひいては自然環境・観光行政の在り方について考え、提案する一冊です。■内容まえがきコロナ禍が浮き彫りにする山小屋の問題第1章 山小屋が抱える諸問題1 ヘリコプター問題ヘリの機体減少に伴って急浮上してきた山小屋への物資輸送問題。それまで山小屋が抱えてきた山小屋運営の構造問題点。2 登山道整備問題登山道崩壊の原因と修復方法・その後のメンテナンスの現状から見えてくる登山道管理の問題点。3 山小屋改修問題山岳地という特殊な環境が考慮されず、小屋改修に対する制約、エクステリアに関する条例、国有林管理など、さまざまな種類の管理体制が入り乱れた状況から起こる問題点。4 トイレ問題富士山の「トイレットペーパーの川」現象で社会問題になった山のトイレ問題。バイオ化導入の状況とその効果、設置後の環境に対する影響評価、管理者や補助金制度などの問題点。第2章 国立公園の未来を考える前章で明らかにした国立公園内の山小屋に関わる諸問題が、なぜ、表面化しているのか。法律や歴史、国家予算などを踏まえて紐解くとともに、日本との比較として米国、英国の国立公園行政を紹介。1 日本の国立公園2 アメリカの国立公園3 イギリスの国立公園第3章 対談「これからの国立公園」日本の国立公園と山小屋が進むべき方向性と可能性を探るべく、北海道大学大学院農学研究院准教授・愛甲哲也氏と雲ノ平山荘主人・伊藤二朗氏が対談。あとがき■著者紹介吉田 智彦(よしだ・ともひこ)1969年、東京都出身。20代半ばに勤めていた会社をやめて、ニュージーランド、カナダ、アラスカなど諸国をまわる。カヤックやトレッキングを通じて自然と人間のあり方を考えるようになり、エッセイ、ノンフィクションや写真、絵を発表しはじめる。サンティアゴ、カイラス山、インドなど世界の巡礼路を歩き、全熊野古道、四国八十八カ所霊場を踏破。現在は、日本独自の文化に注目し、埼玉県の農村歌舞伎や琵琶湖の沖島を取材している。