文化人類学ってどんな学問?
黎明期の先駆者たちから、ラトゥール、インゴルド、グレーバーまで。
繰り返されてきたパラダイム・シフト(=転回)と研究者たちの「格闘」の跡をたどり、現在地を探る。
6つのテーマ(人間の差異、他者理解、経済行動、秩序、自然と宗教、病と医療)を取り上げ、
ぐるぐるめぐり歩きながら考える、文化人類学の新しい入門書。
【「はじめに」より】
「文化人類学ってどんな学問ですか?」そう聞かれると、いつも言葉に詰まる。「昔は未開社会といわれた民族を研究していたんですが、いまは病院とか、企業とか、軍隊とか、現代的な場所も対象になっています」。そんな言い方をして顔色をうかがう。納得いかない様子なら、「ただフィールドワークという現場に深く入り込んで調査する手法は一貫しています」などと言葉をたす。
うまくストレートに説明できないのは、文化人類学が何度も大きなパラダイム・シフト(=転回)を経験してきたからだ。研究対象が変わるだけでなく、学問の前提となる理論的枠組みがたびたび入れ替わってきた。その変化は、かならずしも連続的な「発展」ではない。むしろ「断絶」や「亀裂」でもあった。そこには、人類学者たちが先人の築いた基盤やその時代の支配的概念を批判的に乗り越えようと格闘してきた足跡が刻まれている。
(中略)
私たちはいったいどんな世界をつくりだそうとし、現実にどう世界を変えてきてしまったのか。それは、人類学という一学問に限らず、いまの時代を生きるすべての人にとって切実な問いである。人類学の一筋縄ではいかない旋回の軌跡をたどりなおす過程は、その問いへの向き合い方がいくつもありうることを確認していく作業でもある。
【目次】
1章 人間の差異との格闘
1 「差異」を問う
2 構造のとらえ方
3 未開と近代
2章 他者理解はいかに可能か
1 他者理解の方法
2 揺らぐフィールドワーク
3 存在論へ
3章 人間の本性とは?
1 社会から個人へ
2 形式主義と実体主義
3 近代への問い
4章 秩序のつくり方
1 法と政治の起源
2 国家と政治
3 国家なき社会
5章 自然と神々の力
1 宗教とアニミズム
2 神の概念
3 自然と人間
6章 病むこと、癒やすこと
1 災いの原因
2 医療人類学の地平
3 ケアの視点
7章 現在地を見極める
1 二分法の問い直す
2 変革と実践の学問へ