■あらすじ
“さみしさは透き通る薄い紫の風です”
東京拘置所に届いた一通の手紙。リュウジのもとに届いたのは、都内の精神科に入院するリノアからの手紙だった。リュウジはミャンマーで戦争の取材をした体験を持つ一方、企業の内部告発を行って刑事告訴を受けていた。リノアは高校時代に母親を病気で亡くしたことや、担任の教師にレイプされたことなどがきっかけで精神不安になり、社会に出られずに闘病生活を送っていた。そんなふたりは、今や死語となってしまった文通によって、互いに強い孤独と信頼感で結ばれてゆく。
リュウジは保釈されるも、社会から疎外感を受け続ける。リノアは高校時代からコーラス部に所属し、音楽療法士になることを夢見るが、やがて挫折。どこにも行き場を失くしたふたりは、富士山麓の青木ヶ原樹海へと向かう。しかし、死を前に無垢な澄み切った気持ちの二人は、静謐な森の声を聴く。死のうと思うことだけが救いになる瞬間。二人は迷いながも互いに手を差し伸べあう。だが、一方でリュウジは、拘置所で出会ったヤクザの女、ミユキの美しさにも溺れてゆく。物憂いな時間が過ぎてゆく中で、リュウジはリノアの異変に気づく。
■著者コメント
心に病を持った女の子から、富士山麓に広がる青木ヶ原樹海に連れて行って欲しいと言われて、一緒に行ったことがありました。自殺の名所で知られる樹海は息をのむほど美しく、荘厳な世界が広がり、この小説の原風景が浮かびました。「これを書き上げるまでは死んではいけない」そんな思いで書きました。
■著者プロフィール
東京都生まれ。歌手・中島みゆきの世界に引き込まれ、高校時代に家出して、自転車で日本を一周。北海道の牧場で野生の馬に乗り、将来はジョッキーになる予定だった。