少年時代、紘が投げたボールを追いかけたまま、父親は川に飛び込み、そのまま姿を消した。てっきり流されて死んだものと思っていたが、二十三回忌を無事済ませた紘の前に突然、その父親が現れた。いないからこそ確かな存在であった父の出現が、紘の意識と生活を揺さぶり始める……。
表題作は1991年上半期の芥川賞候補となり、1998年には『あ、春』というタイトルで映画化(監督:相米慎二、主演:佐藤浩市、山崎努、配給:松竹)された。
*ナイスボール
*南へ、海へ
●村上政彦(むらかみ・まさひこ)
作家。1987年『純愛』で福武書店(現・ベネッセ)主催の「海燕」新人文学賞を受賞。以後『ドライヴしない?』『ナイスボール』『青空』『量子のベルカント』『分界線』で5回の芥川賞候補に。また『ナイスボール』は相米慎二監督により『あ、春』として映画化、ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞を受賞。アジアの物語作家を自任している。近著に『台湾聖母』(コールサック社)。日本文藝家協会常務理事。日本ペンクラブ会員。文化庁国語分科会委員。「脱原発社会をめざす文学者の会」事務局長。