客が来ていた。父ではない。部屋の中央にぶら下がっている。その真下で、薔薇が顫えはじめている。香緒留は悲鳴を上げた。朧げな屍体がゆっくりと動いたのだ。天井の紐が揺れ、曲がり、ねじれ……こちらに顔を向けた。(「夢見の家」より)
十人のヒロインたちを次々と襲う、血も凍る恐怖を綴った幻想ホラー短編集。
●倉阪鬼一郎(くらさか・きいちろう)
1960年、三重県伊賀市生まれ。早稲田大学第一文学部文芸専修卒。同大学院文学研究科日本文学専攻博士課程前期中退。在学中に幻想文学会に参加、1987年に短篇集『地底の鰐、天上の蛇』でデビュー。印刷会社、校閲プロダクション勤務を経て、1998年より専業作家。第3回世界バカミス☆アワード(2010年)、第4回攝津幸彦記念賞優秀賞(2018年)。ホラー、ミステリー、幻想小説、近年は時代小説を多数発表、オリジナル著書数は170冊を超える。